この植物園について

歴代園長

  • 初代1972年7月上田 武雄 (教授)
  • 二代目1974年1月冨澤 摂夫 (教授)
  • 三代目1975年4月古谷 力 (教授)
  • 四代目1976年7月関口 慶二 (教授)
  • 五代目1979年4月古谷 力 (教授)
  • 六代目1981年4月小倉 治夫 (教授)
  • 七代目1982年7月古谷 力 (教授)
  • 八代目1994年4月井村 伸正 (教授)
  • 九代目1994年7月木下 俊夫 (教授)
  • 十代目1998年4月吉川 孝文 (教授)
  • 十一代目2006年4月伊藤 智夫 (教授)
  • 十二代目2009年4月石井 邦雄 (教授)
  • 十三代目2010年3月広野 修一 (教授)
  • 十四代目2011年4月伊藤 智夫 (教授)
  • 十五代目2013年4月小林 義典 (教授)

薬用植物園の新たな活動について十二代目園長 石井 邦雄(2009年4月~2010年3月)

現在、薬用植物園はスタッフが一新され園長として私石井が仰せ付かり、実際に薬用植物園を担当する教員として、福田達男准教授と石川寛助教の2名が配置され、新たな教育・研究活動に取り組んでおります。

教育活動の面では、昨年度より薬学教育における実物教育を強化するため、薬用植物学の一環として1年生全員を対象とした薬用植物園の観察会を行っています。その内容は、1年生の授業の空き時間を利用して、1回10名程度の学生を薬用植物園に集め、薬用植物の解説を行うとともに、薬用植物園で作成した薬用植物観察ノート中に設けられた空欄を埋めることでノートを完成させ、薬用植物に関する知識を養うというものです。本年度は1年生全員が観察会に参加することができましたが、終了するまでに約2か月を要しました。幸い薬用植物園には南米産のGuarana (Paullinia cupana) やJaborandi (Pilocarpus microphyllus)、また日本薬局方収載生薬の基原植物など貴重な植物のコレクションがあるので、教室の講義や本に収載されている写真などからだけでは得ることができない、有意義な学習ができたと思っております。
また本年1月には、第1総合グランドの中に約420坪の新しい試験圃場を設置していただきました。バイオガーデンが薬用植物の教育展示を中心とするのに対して、新試験圃場は研究機能の増強や薬用植物の種の保存を目的とした圃場であり、今後、栽培試験等を行う圃場の他、ビニールハウス、薬木林や薬用ボタン園を設ける計画となっております。

社会貢献事業としては、平成17年6月に北里大学と相模原市の間で締結された「新都市農業推進協定」に基づき、薬用植物シンポジウムを5回(薬用植物園単独で行ってきたものを含めると総計11回)、薬用植物セミナーを4回、薬用植物栽培加工体験講座を4回実施してきました。薬用植物栽培加工体験講座は年10回を超える講座で、ハトムギとエビスグサの播種から収穫までを体験するだけでなく、収穫したものの試飲などを通じて、実際の薬としての利用法を学ぶことができる他に類を見ない講座となっています。このような講座を開催してみますと、市民の方々北里大学への信頼感の高さや期待の大きさを感じるとともに、大学からより多くの知識を得たいという熱心な意欲を感じる次第です。

研究活動の面では、生薬の基原植物に関する研究として、朮類生薬、苦参、沢瀉等の基原植物であるオケラ属植物、クララ、サジオモダカなどを中心に植物形態、化学成分及び遺伝子解析を通して分類学的な再検討を行っており、さらに基原植物の生理生態を明らかにすることにより、生薬の生産に係る研究も行っています。来年度は薬用植物園に3名の卒業実習生が配属になります。それらの学生にとって、研究に充分な時間を割くことは必ずしも容易ではありませんが、卒論研究を通して少しでも問題解決能力が身に付くよう、指導していきたいと思っております。

最後に、薬用植物園はこれからも自発的に組織や事業に対する点検・評価を行い、不断の改善を継続することにその価値をさらに高め、薬学教育により大きく貢献できればと思っております。関係各位のさらなるご支援とご協力を、何卒よろしくお願い申し上げます。

「新たな気持ちで」十代目園長 吉川 孝文(1998年4月~2006年3月)

前期に引き続き薬用植物園園長の重責を担うこととなりました。気持ちを新たにやり残した課題に取り組むつもりです。これまで2期4年間にわたりいろいろとご助言を賜り薬用植物園の発展に寄与していただきました石井邦雄、中川靖一両前運営委員の先生方に感謝申し上げます。そして今期新たに運営委員としてお加わりいただきました佐々木泰治、本間浩両先生には園の運営に積極的にご助言をいただきたいと願っております。
さて紀要の前号に本学薬用植物園の直面する2つの問題について記しました。ここでは引き続き2つの課題のその後と、新たに考えるべき課題を記しておきます。

世界の貴重な薬用資源の保存問題

平成12年度の北里学園学術国際交流基金よりご援助をいただき、参加しましたNepal--Japan Joint Symposium on Conservation and Utilization of Himalayan Medicinal Resources (Nov. 6~11, 2000, Kathmandu, Nepal)を機会に、現地Nepal-Himalayaで失われゆく薬用植物資源、いわゆる遺伝子資源について、その保存と有効利用についての方策を探ってきました。幸い今年度よりトヨタ財団のご援助も得られ、昭和薬科大学と北里大学薬学部を中心に特定非営利活動法人(NPO)「ヒマラヤ地域天然薬物資源研究会」を発足させ活動を開始しました。活動の手始めは現地に薬用植物園を造り、日本で保存栽培している薬用植物を移植し増殖させる試みです。現地での栽培が可能となれば、日本に再輸入をして現地の人々に利益を還元してさらなる発展につなげようとの試みです。同様の試みには、1年前に発足したNPOミャンマープロジェクトがあります。いわゆるミャンマー奥地に広がる麻薬のケシの違法栽培地域に現地人の生活のための代替手段として、ケシの代わりに薬用植物を栽培しようとする試みです。このプロジェクトは阿片の違法栽培を防ぐためのプロジェクトとしてその話題性故に注目されていますが、我々の参画しているネパーループロジェクトも地味ではありますが現地の人々への生活の援助という面では非常に重要なプロジェクトと考えています。これを機会に興味をお持ちいただきました皆様方の参加を是非お願いする次第です。

薬用植物園の将来

昨年来、薬学部の経済状況の危機から、教授会でその対策が話し合われ具体的な施策も決定されています。こうした中で具体的には名指しされてはいませんが、薬用植物園も例外ではないと受け止めています。そこで薬用植物園においても独自に経費節減のための具体策を考えるべき時にきています。職員の定員削減についても同様に受け留め、欠員を生じた場合の園の管理体制もかなり具体的に考えております。学部教育に関係する業務以外での専任職員以外の外部人員による対応策もその一つです。園の管理の外部専門業者への委託、あるいはパート雇用による対応です。現在重要な役割を果たしている薬学部1年生を中心とする学生の教育、および相模原キャンパスでの進学説明会時に見学に使用する見本園や研究施設の充実に支障を来さない範囲での経費削減のための施策です。薬用植物園の特殊事情を考慮した上での自発的な具体策を考えているところです。ご理解とご協力をお願い致します。

全学進学説明会に参加して感じたこと

今年、8月2,3両日に相模原で開催された全学進学説明会に参加して感じたことである。食堂(クレセント)の1階で受付を済ませ、ビデオ等で薬学部の説明を受けた高校生およびその父母は、教員や在学生との懇談前か後にはほとんどの人が目の前に広がる薬用植物園のバイオガーデンに興味を示し、見学していく。薬草園職員とアルバイトの学生で手分けして説明に当たる。対応に当たる学生も特に薬用植物に詳しいわけではないので、予め観察のポイント、説明のポイントを手ほどきしておく。真夏のあまり花のない時期であるが、見学に来た高校生や父母は身近にあるハーブを中心とする薬用植物に興味を示し、例外なく薬学部での勉学に興味を示す。特に薬草園の管理棟で展開している組織培養による薬用植物の増殖(バイオテクノロジー)に興味を示す。実に興味津々といった様子がうかがえる。ついつい、こうした興味を持った学生はどこに行ったのかと思ってしまう。

薬用植物園の最近の話題十代目園長 吉川 孝文(1998年4月~2006年3月)

薬学部のある白金地区の整備計画がいよいよ最終段階である。現在、私のいる3号館3階から眼下に植栽が進んでいる様子を見ることができる。実は今回楽しみにしていることがある。白金地区整備委員会委員の薬学部の田中晴雄教授のご助力により、緑化計画の中に薬用植物を入れて戴いたことである。その中には相模原の薬用植物園から移植したものも多数ある。

キャンパス内に薬用植物を植えるということは非常に意味のあることと思う。勿論、北里大学には相模原に立派な薬用植物園があり薬学部学生は有効に利用できることになっている。しかし1年次には残念ながら一部の学生を除いて、あまり興味を示す学生はいないようである。本格的に薬学を勉強し、興味を持つ段になると、薬用植物というか植物自体があまりない白金では、ほとんど実地に学ぶことができなくなるわけである。

昔、もう20年位前になるが、3年生の春にあった生薬学実習で、時間のやりくりをして、半日、東大和市にある東京都の薬用植物園に見学に出かけていた時代がある。園長のご好意で、試験栽培中のケシからの阿片採取の実演を観察でき、非常に効果的な実習ができたものである。実にゆとりのある教育ができていたと思う。現在もそうだが、将来はもっと余裕がなくなるかも知れない。それがいながらにして薬用植物の実地観察ができるのである。現状では都市整備法によりいろいろと制限があり、薬用植物は数的にはわずかである。しかし、今後少しずつ増やすとか、季節の花を薬草園から提供することで補えればと思っている。

次に最近の薬用植物園の活動について2つ程紹介する。学会活動などの活動の様子はこの紀要をご覧になればお分かりいただけると思うが、それ以外の目立たないが、薬用植物園にとっては重要な活動の一端である。

1)NPO法人「ヒマラヤ地域天然薬物資源研究会」; 昨年から昭和薬科大学との協力でNPO法人を立ち上げることができた。目的として、「ヒマラヤ地域に対して、天然薬物資源を調査研究し、その保全と普及に関する事業を行い、ヒマラヤ地域住民の健康福祉と生活の向上に寄与することを目的とする」とある。分りやすくいうと、絶滅寸前の貴重な薬用植物を現地あるいは日本で増殖し、現地での栽培を援助するということである。生育した植物を購入することにより、資金援助すると同時に、現地に産業として根付かせるという試みである。この他、現地でセミナーを開催して啓蒙活動をしたり、若い研究者を日本に呼んで教育をしたりと、いろいろ予定している。この4月12日(土)には、薬学部校舎で第1回目のセミナーを開催することが決まっている。

2)春の薬用植物シンポジウム; 昨年から春の花の時期に薬用植物シンポジウムを開催することにした。主に1年生を対象にである。昨年は1年生、130名の参加があった。一般の団体の参加者もいて、全部で230名位が集まり盛況であった。今年は企画の段階で、既に昨年参加の団体からの申込があり、後押しされるように4月26日(土)午後の開催が計画されている。昨年は、講師として薬膳料理研究家にお願いしたが、今年はアロマテラピー専門家をお願いすることが決まっている。

薬用植物園 - その機能と役割十代目園長 吉川 孝文(1998年4月~2006年3月)

薬学における薬用植物の役割は、大きく二つある。一つは薬学教育への寄与、もう一つは研究面での寄与である。前者は、薬学の歴史の原点としての薬用植物、生薬の基原植物、さらには現在における重要医薬品の原料としての薬用植物などの実物教育の材料の提供である。純粋な意味での植物観察とは別に、北里大学では一年生が学部と離れた相模原での生活で、ややもすると薬学生としての意識が希薄になる時期、少しでも薬学生を自覚させ、目的意識を持たせる上での役割も大きい。

もう一面の研究への寄与という面では、以前の研究材料の提供という面はかなり薄れてきている。現在は、全地球的な環境破壊による植物資源の消失から、貴重な遺伝子資源を守るための施設という認識が非常に大きくなっている。北里大学薬用植物園の存在は、これまでの職員の努力の結果、収集標本植物数、あるいは収集植物の重要性という点からも、全国有数の植物園として認められている。しかしながら、今後一つの植物園で管理できる植物数には限界があり、また園の立地条件、即ち主にその気候条件から、植栽可能な植物も限られてくる。全国あるいは世界の各園の特色を生かす形での、分担保存管理が不可欠となる。こうした面から他の園との連携がますます重要になってくる。

薬用植物園の職員としては上の二つの役割を果たすための努力が、そのまま職務となってくる。一つは見本園の整備と貴重な収集植物の保存育成である。こうした一般的な植物園の役割とは別に、北里大学特有の役割もある。即ち学部と離れた施設という特殊事情である。夢を持って入学してきた一年生と共に生活する大きな意味である。具体的にはクラス担任の重責となる。

現在はこうした役割を果たしつつ、将来的には独立した一研究施設としての機能を果たす努力をしている。既に植物組織培養技術による植物遺子資源の保存育成法は確立し、アマゾン産やヒマラヤ産の貴重な植物で機能している。各保存植物の品質評価法としては従来の植物形態学的、あるいは化学的な方法から、薬理学的な評価、さらに最新の遺伝子解析法なども導入する努力が実を結びつつある。

職員のこうした努力に対する皆様のご支援、そして薬用植物園の果たす役割等への、貴重な意見、アドバイスをお願いする次第です。

薬用植物園 - 新たな医療の原点九代目園長 木下 俊夫(1994年7月~1998年3月)

薬用植物園は、「薬草園」の名のもとに古い歴史を持つ。薬草園の起りは、野山に自生していた薬用植物を一箇所に集め、採取の便と品質の向上をはかったものと考えられているが、その他にも「治療の場」としての意義を持っていたと考えられる。

現在は勿論、過去の時代においても「社会」は必ずしもよい治療環境を提供していなかったに違いない。人間は、必要以上のものを集めようとするが、その結果はchaosをもたらし、進歩よりは混乱を引き起こす。これは疾病の原因である。

練達の薬師であれば野に咲く薬草の花を見て、「これで私が看ている病人は治る!」と信じられたかもしれないが、やはり大きな薬草園の中に立ってあたりを見回した方がその信念は強められるであろう。現代の医師も、整備された医療スタッフ、検査施設、医療機器、医薬品などの完備した医療設備に囲まれることによって、十分な治療が行えるという自信が増大する。しかし最近、医療の環境は「設備」や「スタッフ」だけでは不十分であり、自然とのかかわりを医療の場に導入する試みがなされている。
1997年の日本透析学会年会では、日本におけるホリスティック医療の先駆者の一人である帯津三敬病院の帯津院長が特別講演に招かれ、宇宙と人間の関係を考えることが治療者に必須であるとする「全体的医療」の重要性を強調した。

我が薬用植物園に入院や通院中の皆さんが見学に来られることも、立派な治療の一環なのである。
本薬用植物園は、内容が充実しており、特に外国の植物の移植などにより全国有数の植物園となっているが、規模は残念ながら十分とはいえない。このことは、一部を除き各薬科大学の植物園についても当てはまるようである。

薬学の伝統である薬用植物園が、実はもっとも新しい薬学を支えるものであることを改めて認識し、これをさらに拡充すべき時であろう。