研究テーマ

動物個体から細胞・遺伝子レベルまで,非常に幅広い実験系を用いている.

 
 

近年,種々タンパク質分子の遺伝子レベルでの解析が進み,生命現象を司る多くの細胞機能が,物質的に裏付けられた一連の化学反応として捉えられるようになってきた.たとえば,従来は薬理作用を説明するために構築された概念でしかなかった薬物受容体やイオンチャネル, トランスポーター等も,今ではそれらの実体が明らかにされ,タンパク質分子として取扱われている.このような生命科学分野における技術の進歩と,それに基づく生命に関する知識と理解の急速な進展は,薬理学の研究にも大きな変革をもたらしつつあるが,当講座では,そのような基礎科学の成果を積極的に導入しつつ,臨床医学分野における応用を視野に入れ,1) 新たな実験技術の開発,2) 疾病の発症機序解明,および 3) 疾病に対する新規薬物療法の確立,を目指して努力を続けている.

 

Know thyself

In the pronaos of the Temple of Apollo at Delphi

研究分野の概要

  1. 1.眼循環障害の発症機序の解明と眼循環障害改善薬の探索に関する研究

当研究室では,小動物(マウス及びラット)用の眼底観察装置及び眼底血流量測定装置を独自に開発し,世界的にも類を見ない眼循環調節機構と眼循環障害発症機序に関する in vivo 研究を行っている.近年,網膜循環調節異常が糖尿病性網膜症の発症や,緑内障の進行機序に関わっている可能性が考えられている.当研究室では,網膜循環異常発症の分子基盤を解明し,網膜循環の正常化に基づく糖尿病網膜症の新規予防戦略を確立することを目指し, 最新の物理学・分子生物学・生化学・形態学的アプローチを駆使して,眼循環障害の発症機序解明を目的とした研究を行っている.

  1. 2.網膜血管の恒常性維持機構に関する研究

糖尿病網膜症や緑内障の病態の進行には,網膜血管障害が関与していると考えられている.当研究室では,網膜血管の恒常性を維持することにより,それらの病態の進行が抑制できるとの考えに基づき, 高度な血管イメージング技術を駆使することによって,網膜血管の恒常性維持機構の解明を目的とした研究を行っている.

  1. 3.緑内障により惹起される視神経細胞死のメカニズムと視神経細胞保護薬の探索

正常眼圧緑内障を含む緑内障により惹起される視神経細胞死には,グルタミン酸神経毒性が関与していると考えられている.本邦では正常眼圧緑内障の患者が多数を占めるにもかかわらず,緑内障の治療には,主に眼房水産生抑制作用や排出促進作用により眼圧を低下させる薬物が用いられており,現在のところ,神経保護効果が期待される薬物は少ない.当研究室では,グルタミン酸神経毒性を介した視神経細胞死を誘発することが知られている網膜虚血・再灌流モデルや,N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)硝子体内投与モデルを用いて,視神経細胞死のメカニズムの解明と視神経細胞保護薬の探索を行っている.

  1. 4.網膜色素変性症により引き起こされる視細胞死の機序解明と新規治療法開発への応用

網膜色素変性症(Retinitis pigmentosa; RP)は,厚生労働省が定めた特定疾患治療研究事業対象疾患の 1 つで,進行性の視細胞網膜色素上皮細胞の変性により視覚障害,そして最終的には失明を引き起こす疾患である.現在のところ,RP による視細胞死に至る経過を遅延又は停止させる有効な治療法は存在しない.当研究室では,種々の RP モデルマウスにおいて見られる視細胞死の機序を解析し,新たな RP の治療薬の探索を行っている.

  1. 5.糖尿病性白内障の発症および進行に関わる因子の同定とその新規薬物療法への応用

当研究室では,再現性よく糖尿病性白内障を発症させる方法を確立し,さらに白内障重症度を正確に評価するための小動物水晶体用の高分解能デジタル写真撮影装置を独自に開発して,糖尿病性白内障の発症初期から成熟期に至るまでの水晶体白濁の平面的分布の変化を,経時的に in vivo の同一個体で捉えることに成功した.この水晶体撮影装置は,ラットの水晶体全体にむらなく光を行き渡らせることができるにもかかわらず,視野内には光源が写り込まないという極めて優れた特徴を有しており,1510 万画素のデジタルカメラと組み合わせることにより,水晶体全体の撮影に世界一の性能を遺憾なく発揮し,大きな成果をあげている.我々は,1)実験的糖尿病性白内障の発症と進行の様子を多面的な角度から正確に評価すること,2)さらにその実験の結果を踏まえて,摘出白内障水晶体を用いた各種 in vitro 実験を行うことにより白内障の発症機序と病態生化学を明らかにすること,そして,3)以上の成果から選択された候補薬物による白内障の予防・治療実験を行い,白内障の新規薬物治療法開発に結びつけること,を目的に研究を進めている.

小動物用眼底撮影装置

麻酔ラットの網膜血管

ラット摘出網膜の血管イメージング像

ラット摘出網膜の組織像左:正常 右:NMDA投与

マウス摘出網膜の組織像左:正常 右:RP モデル

ラット水晶体像の経時的変化

正常ラット

糖尿病ラット

in vitro 実験室

in vivo 実験室