臨床薬学部門の歩み


臨床薬学部門(旧:臨床薬学研究室)は、1973年に日本の薬科大学の中で最初に設置された「大学院修士課程臨床薬学特論」の担当教室として、1977年に開設された研究室です。大学で一講座が開設される際には多くの場合、その領域における専門家である主任教授が任命され、教員として助教授、講師、助手が加わり、学部の講義や実習を担当し、さらに大学院生の研究指導が委ねられるわけですが、臨床薬学研究室は、そのような一講座の形を取らない(専任教授のいない)、しかし北里大学薬学部の特徴ある教育研究の一つである臨床薬学教育を担って開設された研究室です。

 本学の大学院修士課程に臨床薬学特論が開設された最大の動機は、初代薬学部長・上田武雄先生らによる臨床薬学教育への関心と情熱、そして卓越した先見によるものでした。薬剤師が薬の専門家として患者医療に直接的に寄与していく必要性を、すでに当時から強調され、そのために必要な臨床現場での実地訓練を重視した臨床薬学教育の取り組みは、まさに本学の建学精神である「叡知と実践」を追及したものでしょう。開設当初は、当時の薬品治験学(林田明教授)、薬理学(富沢摂夫教授)、薬剤学(関口慶二教授)の3講座が中心となり、北里大学病院と北里研究所病院の協力を得て、手探りの臨床薬学教育が進められました。開設時から少数ながら地道な大学院生の教育が展開されましたが、当時はE号館(現:3号館)8階の薬品治験学教室の一角に間借りして大学院生の机が並べられ、相模原での病院実習と白金キャンパスでの講義・実習が行われていました。1977年9月にE号館1階白金図書館資料室の奥(現:図書館職員閲覧室)に臨床薬学研究室が設置され、一名の専任助手が常勤することになり、以来、大学院生は自分たちの研究室で学習ができるようになりました。また、この時から臨床薬学教育の一端を卒業研究を通して、学部学生にも反映させていくことになりました。数回のカリキュラム改訂や組織・教室構成員の変更、教員の海外留学などを経て研究室は1985年に新築されたH号館(現:2号館)4階に引越しました。1995年4月に薬学部附属施設として「臨床薬学研究センター臨床薬学部門」となり、1997年には大学院薬学科博士後期課程に臨床薬学の専門分野を開講し、「博士(臨床薬学)」の学位取得者がでています。1999年の北里研究所病院新棟完成に伴って病院内3階に部門を移し、現在に至っています。

 1984年より小宮山貴子講師(現:教授)が米国ケンタッキー大学に留学し、「Pharm.D.」の学位を取得。1989年7月には、国際社会に対応して北里大学薬学部は米国ケンタッキー大学薬学部と姉妹校の提携を結び、実質的な国際学術交流が開始され、1997年に久保田理恵助手(現:講師)が「Pharm.D.」を取得しました。臨床薬学の領域においては、学生のケンタッキー大学短期研修プログラムを通して、大学院生が自分の目と耳で米国の薬剤師業務の実際と薬剤師教育の実際を学び、将来の医療を担う薬剤師としてその貴重な経験を生かしていってくれることが期待されています。

 これまでに多くの人々が臨床薬学に情熱を抱き、医師や看護師とともに働くことのできる薬剤師を目指して臨床薬学部門でともに悩み、そして学んできました。臨床薬学あるいはクリニカルファーマシーという言葉が、何の抵抗もなく述べられ受け止められるようになった今日まで、臨床薬学部門はゆっくり、しかし地道に歩んできました。

2002年8月


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