臨床薬学が、近年、薬学教育における重要問題の一つになって来たのには多くの理由がある。それについては薬学、医学関係者の意見もまた多々ある。北里大学薬学部においてもいろいろと意見があった。これらをまとめてみると次のようである。
まず、医療の動向をみると、一つには薬物の進歩があって医療が変わってきている。強力な薬物がふえると同時にその薬効の評価、副作用(有害効果)、用法、相互作用に多くの問題がおこった。現実に行われている薬物療法に多くの問題があるといえる。第二に、医療が医師単独の行為ではなくなり、医療チームの仕事になりつつある。第三には、薬剤師業務の内容が変化した。
以上のような医療の変化に対応して、どのような薬剤師を養成すべきかが考えられた。医療チームの一員として積極的に医療に参加し、薬物療法の論理を理解した上で薬学の立場から薬物療法に貢献し、それによって医療に寄与できる人物を養成したいと考えた。
薬剤師の業務をもう少し具体的に考えると、それは処方されたものを間違いなく調剤し、患者の体内にまで入れる面と、もうひとつは処方が作られる段階へ積極的に参加して、薬学の立場から意見を述べるという面とがある。前者は、ときに病院薬学とよばれ、後者は狭義の臨床薬学ということができるが、私どもはこの後者の業務が比較的新しいものであり、その将来性がなお確実に予測できないものであるにもかかわらず、この両者は不可分であるとし、両者を含んだものを臨床薬学であると考えた。
臨床薬学を研究の面よりもむしろ実務の面で強くとらえ、新知見の発見もさることながら既知の知見を縦横に駆使して実際の問題に応用する能力を第一義のものとした。
北里大学大学院薬学研究科 臨床薬学特論紀要第1号(昭和57年5月)より