ご挨拶

  •  この度、2021年4月より、前任の伊藤智夫先生より研究室を承継いたしました前田和哉と申します。
  •  生物薬剤学は、種々の薬と生体分子との相互作用により決定される薬物の体内の動き(薬物動態)を分子レベル―組織レベル―個体レベルと階層的に理解する学問体系です。従って、薬物動態を理解するためには、まず、薬物動態を支配する分子、主に代謝酵素やトランスポーターが薬をどのように認識し、どの程度の効率で薬物を処理できるかを簡便に評価可能な方法論の確立が求められます。次に、臓器レベルでの薬物の処理効率は、個々の分子の処理能力の単純な総和では表すことはできず、分子の配置も考慮に入れた一つのシステムとして理解する必要があり、そこには数理モデルを介した考察が有効な手段となります。さらに、臓器の処理能力の総和として全身での処理能力(クリアランス)が決定されます。また、各分子の機能は、様々な内的(遺伝子多型など)、外的(病態・体格・生活習慣・併用薬など)要因によって変化し、それらの総体として、薬物動態の個人差、ひいては薬効・副作用の個人差へと繋がっていきます。従って、個別化された最適な薬物療法の実現のためには、薬物動態を支配するメカニズムを定量的に理解しておくことは必須となります。
     従って、我々が研究において最も大切にしていることとしては、単にin vitro試験で定性的な結果を得るのみでは不十分であり、全ての結果は定量的に解釈され、最終的にはヒトにおける薬物動態の予見に繋げる必要があると考えています。そのために、in silico, in vitro, in vivo, clinical study等あらゆる階層の研究を一気通貫に展開することで、方法論の実証を目指していきたいと思っています。
     そして、その成果を薬効/副作用の個人間変動の理解、医薬品の適正使用に資する情報提供、創薬における薬物動態特性の最適化を目指した方法論の確立など、速やかに社会還元することにより、薬物療法の最適化に貢献したいと考えています。
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