第22回 日本中毒学会東日本地方会 参加報告



「なぜ、吐かせてはいけないのか -誤飲時の初期処置に関する文献的考察-」  戸塚(M1)


要旨

 誤飲事故に対する現場での行動指針を作成する目的で、医学関連図書280冊を調査した結果、誤飲の初期処置として原則「吐かせるべきである」という見解を得たが、教育啓蒙に当たっては「催吐」の危険な場合の周知徹底も必要となる。そこで今回、特に催吐が「禁忌」となる痙攣誘発物質に着目し、その科学的根拠と「催吐による有害事象」の有無について文献調査した。

 【方法】MEDLINE(19502007)を用いて検索用語Seizures/ Chemical Induced及びaccidental overdoseand検索し、該当論文より「痙攣誘発物質」および「催吐による有害事象」を調査した。報告件数の多かった上位10品目の「痙攣誘発物質」については国内外の総説、図書、トコンシロップの製品情報における記載の比較も行った。さらにカンフル中毒に関してMEDLINE(19502007)および医中誌(19832007)より、国内外の症例報告を検索した。

 【結果・考察】該当論文148件より痙攣誘発物質71品目(うち医薬品74.6)が抽出されたが、催吐による有害事象報告はなかった。報告件数の多い物質にはアモキサピン、アミトリプチリンなどの三環系抗うつ薬(TCA)、コカインなどの規制薬物、カンフル、イソニアジド、テオフィリン、NSAIDs等があった。総説や、国外関連図書では、いずれの物質も痙攣を誘発するという記載がみられたが、催吐の禁忌が明記されていたのはTCA、カンフル、イソニアジドのみであった。国内図書で痙攣を誘発すると記載のあったのは、ストリキニーネ、TCA、カンフルのみであった。トコンシロップの製品情報で、禁忌と明記されているのはストリキニーネとアモキサピンのみで、その他のTCA、カンフルでは使用が「推奨されていない」、テオフィリン、ジフェンヒドラミン、NSAIDsでは「適用可能」となっていた。痙攣誘発の報告があっても、催吐の是非についての見解は統一されていない現状であり、早急にデータを評価し添付文書の過量投与の記載を整備していくべきである。カンフル中毒は、国外で28例、国内で5例の症例報告が得られ、その78.8%で痙攣を誘発していた。国外では風邪用外用薬(4.810.8%)の誤飲で乳児が2例死亡していた。Vick’s VapoRubの国内製品は5.26%含有しており、本邦においても注意の喚起が必要である。また、国内では樟脳の大量摂取による痴呆高齢者の死亡例が2例あった。樟脳は使用頻度が減少したとはいえ、小児だけでなく高齢者による事故も注意していかなければならない。
 痙攣誘発物質は一般市民が家庭で使用する可能性の高い医薬品や家庭用品に多く含まれており、EBMに基づいて誤飲時の行動指針を統一し、一般市民にどのような場合に「吐かせてはいけないのか」を徹底する必要がある。


日本中毒学会参加報告  友田(M1)


1か月前の1月12日に、青森県弘前市にあります弘前大学医学部の建物で行われました、第22回、日本中毒学会東日本地方会について簡単に報告したいと思います。
 弘前まではここから4時間ほどかけていきました。東京ではまだ雪を見ていませんでしたが、青森空港に着陸するときは一面雪景色でした。タクシーに乗ってみると、その積雪の高さに改めて驚きました。地元の人によれば今年は少ないということでしたが、戸塚さんだけはしっかり転んでいました。
 福本先生は幹事、戸塚さんは演題者、僕はスタッフとして学会に参加しました。

 学会の目的は、中毒に関する実態の調査,病態や発生機序の解明,予防および治療法の開発・普及をはかり,関係分野との交流を促進し,中毒医療の発展に貢献することです。
 今回は特別講演1題、教育講演2題、一般演題16題が行われました。

 特別講演・教育講演では「今だから話せるサリン事件の真相」「地下鉄サリン事件と自衛隊の対応」「地下鉄サリン事件被害者の剖検における問題点」といった、地下鉄サリン事件をテーマとした講演が行われました。松本サリン事件から地下鉄サリン事件までの一連の事件の真相や、死者12名、負傷者5000名以上だした地下鉄サリン事件のあの現場で実際に活動を行った自衛隊隊員の話など、オフレコを交えた講演が聴けました。この講演で、警察や消防、医療機関等の連携や情報共有の不足、化学テロに対する対処能力が今後の課題として挙げられました。その理由として、事件当時未知であった化学物質に対し、警察、消防、医療スタッフがあまりにも無防備に対処したために二次災害を起こしたからです。危機管理に対する意識の低さを指摘していました。
 一般演題では、救急を受診した中毒患者や日本中毒情報センターへの問い合わせに関する実態調査のほか、医薬品・化学物質・毒キノコ中毒における稀な中毒症状、難治性の症状に対し成功した治療例や、薬物動態をテーマにした症例報告など、様々な演題が聴けました。個人的には9番目に行われた「新潟市民病院の中毒分析の9年間のまとめ」に興味を引かれました。内容は、この9年間に行った中毒分析、779症例について、triageを用いてスクリーニングを行った結果や、定量分析を行い治療の参考としたことについてのまとめでした。中毒学会が分析を提唱する15品目のうちベンゾジアゼピン系薬物、三環系抗うつ薬が特に多く、続いてアセトアミノフェン、有機リン系殺虫剤が多いという結果でした。また、中毒の事前情報があるケースより、ないケースの方が多かったという結果から、分析の有用性が確認できました。本部門でも行っている定量分析と毒性評価という研究テーマに類似した演題だったので参考になりました。

 中毒学会は薬学だけでなく様々な視点から検討しているため、活発な議論になるのが特徴的だと思います。中毒学会の先生はタフで熱くておもしろい方が多いので、みなさんも是非参加してみてはいかがでしょうか?

2008.2.23  友田    






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