化学療法学II 解答と解説(2003年7月7日実施)

問1、 問2:5、7 順不同 教科書p312, 3
 ペニシリンおよびセファロスポリンの生合成は、まずシステイン、バリンおよびα-アミノアジピン酸からなるトリペプチドが形成され、その後閉環してβ-ラクタム環とチアゾリジン環が形成される。前駆体アミノ酸はいずれもL体であるが、生合成の過程でバリンはD-体に異性化される。
問3:2、4 どちらか一方でも正解とする。 教科書p312〜314
ゲンタマイシンはアミノグリコシド系抗生物質であり糖を前駆体とする。タクロリムスとナイスタチンはマクロライド骨格を持ち、脂肪酸経路(またはマロン酸経路)で合成される。ペプチド生成酵素により合成されるものはシクロスポリンとチエナマイシンである。どちらか一方を解答した場合も正解とする。
問4:4  教科書p308, 9
選択肢の抗生物質のうち、ポリケチドを経て生合成される物質はエリスロマイシンとテトラサイクリンであるが、エリスロマイシンのアグリコンは7分子のmethylmalonateから合成される。
問5:2  
問6:3  教科書p152〜4
β-ラクタマーゼはアミノ酸配列の相同性や遺伝子の塩基配列の相同性に基づいた系統発生的根拠に基づいて以下のように分類される。カルバペネム系抗生物質はセリンβ-ラクタマーゼでは分解されないが、活性中心に亜鉛を持つ亜鉛β-ラクタマーゼ(メタロβ-ラクタマーゼ)によって分解される。

セリンラクタマーゼ クラスA β-ラクタマーゼ(ペニシリナーゼ)
クラスC β-ラクタマーゼ(セファロスポリナーゼ)
クラスD β-ラクタマーゼ(OXA分解性ペニシリナーゼ)
亜鉛 β-ラクタマーゼ クラスB β-ラクタマーゼ(カルバペナーゼ)


問7:1  教科書p157, 8
問8:6  教科書p157, 8
問9、問10:4、5 順不同 教科書p155。
問11:7 教科書 p193 
耐性機序の研究から耐性菌に有効な抗生物質が開発された例。ジベカシン=3ユ, 4ユ-dideoxykanamycin B
問12:2 教科書 p151
問13:6 教科書 p158
問14〜18抗真菌剤の投与方法に関する問題です。
問14:2、問15:3、問16:1、2 どちらか一方でも正解 問17:3、問18:3
【参考】
深在性真菌症   ―経口― フルコナゾール、イトラコナゾール、フルシトシン。
深在性真菌症   ―注射― アムホテリシンB、ミカファンギン、ミコナゾール、フルコナゾール
口腔・消化管真菌症―経口― アムホテリシンB、ナイスタチン、ミコナゾール、フルコナゾール、イトラコナゾール、フルシトシン、クロトリマゾール
皮膚真菌症    ―経口― グリセオフルビン、テルビナフィン。
カリニ肺炎    ―注射― イセチオン酸ペンタミジン、ST合剤。
その他の抗真菌剤は皮膚真菌症に対してクリーム、軟膏、液剤として用いられる。
問19:1
全て正文。
a:ミカファンギンは真菌の細胞壁を構成成分であるβ-グルカンの合成を阻害する。
b, c:エルゴステロール生合成経路(講義プリント)を参照。

問20:2
a:正。深在性真菌症は日和見感染症として広く認識されてきている。健常人ではほとんど発症することはないが、記述のような疾患の患者はハイリスクとなる。その他、高齢者、免疫抑制剤の投与を受けている患者も日和見感染のリスクが高い。
b:正。アムホテリシンBの副作用として、悪寒・発熱(高頻度)、腎毒性(重篤)、低K血症など。
c:誤。フルシトシンの単剤投与は耐性菌が出現しやすい(特にカンジダ、クリプトコッカス)ので、アムホテリシンBと併用されることが多い。
問21:7
a:誤。 メトロニダゾール:抗トリコモナス薬。ニトロ基の還元体が核酸やたん白質の合成を阻害すると考えられている。DNAポリメラーゼに対する阻害作用は報告されていない。
b:正。 スルファドキシン・ピリメタミン:抗マラリア薬。合剤として用いられる。どちらの化合物も葉酸代謝を阻害する。
c:誤。 パモ酸ピランテル:回虫には有効であるが、鞭虫には無効。作用機序の記述は正しい。
d:誤。 スルファメトキサゾール・トリメトプリム:ST合剤。葉酸代謝を阻害する。ST合剤の注射薬がカリニ肺炎に適用される。内服薬は抗細菌薬として用いられ、カリニ肺炎は適用外使用となる。
e:正。 イベルメクチン:国内では腸管糞線虫症にのみ適応が認められているが、有効範囲は線虫類や節足動物類と幅広い抗線虫・抗昆虫活性を示す。
問22:5
a:誤。ガンシクロビルは細胞由来のリン酸化酵素で3リン酸型へ代謝されるため、TKaseをもたないヒトサイトメガロウイルスに対しても活性を示す。しかし、細胞のDNA合成も阻害するため、骨髄抑制が現れることがある。
b:正。バラシクロビルはアシクロビルのL-バリンエステル体で、ペプチドトランスポーターを介して体内に吸収された後、主に肝臓でアシクロビルに代謝され抗ウイルス活性を示す。プロドラッグ化により経口吸収性が改善され、アシクロビルより高い血漿中濃度曲線下面積(AUC)が得られる。
c:正。感染細胞内で複製されたインフルエンザウイルスは宿主細胞から出芽し、遊離するが、その際、ウイルス表面蛋白質であるノイラミニダーゼ(NA )がシアル酸を破壊することにより、ウイルスの出芽を促進する。リン酸オセルタミビルはプロドラッグであり、代謝によりオセルタミビル活性体に変換され、この活性体がNA に特異的かつ強力に結合することにより、その働きを阻害する。ノイラミニダーゼを阻害されたウイルスは感染細胞から遊離できず、かつウイルス同士がお互いに凝集してしまい、それ以上の増殖が抑制される。
問23:6
a:誤。ジドブジンはヌクレオシド型逆転写酵素阻害薬である。感染細胞内で3リン酸型に変換されたのち、逆転写酵素の基質となりcDNAに取り込まれ、チェーンターミネーターとして作用する。
b:正。
c:誤。アバカビルはヌクレオシド型逆転写酵素阻害薬である。細胞内の酵素によってカルボビル3リン酸に代謝され、逆転写酵素の基質となりcDNAに取り込まれ、チェーンターミネーターとして作用する。
問24:7
a:誤。ジヒドロ葉酸還元酵素はジヒドロ葉酸からテトラヒドロ葉酸への変換を触媒する。
b:正。
c:誤。シスプラチンは鎖の主にdG残基に反応してDNA鎖内またはDNA鎖間で架橋を形成する。DNA合成も阻害するが、転写や分裂の過程にも影響することから、細胞周期特異性はない。
d:正。
e:誤。パクリタキセルやドセタキセルは細胞の微小管たん白質(チューブリン、tublin)の重合を促進し、微小管を安定化することによって細胞分裂を阻害する。微小管たん白質の重合を阻害する抗腫瘍薬はビンカアルカロイド(ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン)である。
問25:2
a:誤。http://www.mc.pref.osaka.jp/ocr/registry/statistics/incidence/method.html
b:誤。リュープロレリンはLH-RHアゴニストとして作用し、下垂体のLH-RH受容体のダウンレギュレーションをおこすことによってLHやFSHの分泌を抑制する。
c:正。
d:正。
e:誤。抗エストロゲン作用があり、乳がんや子宮体がんに用いられる。

問26:8
左欄の抗悪性腫瘍薬に対する代表的な副作用は次のとおり。
抗悪性腫瘍薬       副作用
a 硫酸ビンクリスチン-------------神経症状
b 塩酸ブレオマイシン-------------肺毒性
c シスプラチン----------------------腎毒性
d 塩酸ドキソルビシン-------------心筋障害
e シクロホスファミド-------------出血性膀胱炎
   
問27:3
a:正。
b:誤。ミコフェノール酸はかび(Penicillium属)が生産する。IMP dehydrogenaseを可逆的、非競合的に阻害して、IMPからGMPを生成するde novo合成経路を阻害する。
c:正。
d:誤。タクロリムスはFKBP12と複合体を形成して、カルシニューリンの活性を阻害することによりT細胞のIL-2産生を抑制する。
e:正。記述の他、アザチオプリンはチオIMP(TIMP)に代謝されたのち、TITPやdTGTPに変換されRNA, DNAに取り込まれることにより細胞に障害を与える。。
問28〜35 どれも基本的な構造です。尚、構造式は第14改正日本薬局方に準拠しています。教科書と記述方法に違いがありますが、今後のためにも局方の書き方に慣れてください。
問28:9、抗腫瘍抗生物質、教p234、プリント抗腫瘍薬C
問29:4、アルキル化薬、教p230、プリント抗腫瘍薬A
問30:6、代謝拮抗薬、教p232、プリント抗腫瘍薬B
問31:1、抗腫瘍抗生物質、教p234、プリント抗腫瘍薬C
問32:2、抗ウイルス薬、プリント
問33:7、抗腫瘍抗生物質、教p234、プリント抗腫瘍薬C
問34:3、抗真菌薬、教p209、
問35:10 抗真菌薬、教p212、プリント
問36:3
a:正。
b:誤。アンタビュース様作用はアルデヒドデヒドロゲナーゼの阻害により、アセトアルデヒドの代謝が阻害されるため、二日酔いに似た症状があらわれる。
c:正。

以上