【医薬基盤】

 ここ数年で私たちが注目しているのは、脂質代謝のメカニズムに作用する、コレステロールをコレステリルエステルへと変換するアシルCoA:コレステロールアシル転移酵素 (ACAT)の阻害剤です。この酵素の阻害は、コレステロールの腸からの吸収や動脈硬化の初期病変とされる動脈壁への付着を抑制することから、その阻害剤は新しいタイプの動脈硬化性疾患の予防・治療薬としても期待されています。

 実際に私たちの研究室ではこれまでに微生物資源からの脂質代謝阻害剤の研究を進め、ACAT 阻害剤を数多く見出してきました。その創薬候補化合物のひとつが「ピリピロペン」です。この化合物は、ACAT アイソザイムで肝臓と小腸だけに発現している ACAT2 に非常に高い選択性(ACAT1 との差は 1000 倍以上)をもつことが分かっています。 これまでの ACAT 阻害剤の中で、このように ACAT2 選択的な阻害剤は見出されておらず、従来の阻害剤とは異なりACAT2 を特異的に阻害する唯一の化合物と考えられています。

 こうした背景から200612月にACAT2 阻害剤の開発プロジェクトが医薬基盤研究所の研究推進事業に採択され、基礎研究が精力的に進められています(右上図、化学工業日報より引用)。今後は、小腸と肝臓で効果のある誘導体を選出しその上で動物実験を進めていき、創薬開発の実現に向け研究を推進していく予定です。ピリピロペンは、天然物からしか得られない化合物であり、その開発は軒並み撤退した ACAT 阻害剤に残された最後の可能性とも言え、今後の研究の動向にも注目が集まっています。