医薬品情報について

医薬品情報とは

医薬品情報源の分類
一次資料
二次資料
三次資料

繁用される情報源の種類と特徴
添付文書
医薬品インタビューフォーム
使用上の注意の解説
緊急安全性情報
医薬品情報提供ホームページ

日本薬剤師会ホームページ

情報センター

その他

医薬品情報の収集の実際

添付文書と医薬品インタビューフォームの使い分け

医薬品情報評価の基本

医薬品情報とは
  • 医薬品情報 DI (Drug Information)は、医薬品の開発、製造、使用のあらゆる過程において存在する。

  • 薬剤師が,医薬品情報を必要としている人に対して、目的に合わせて情報を検索・収集し、内容を評価して選択し、資料として加工し、相手に合わせて提供することで、適切な薬物療法を支援することができる。

  • 医療現場で薬剤師が行うこのような業務をDI業務(またはDI活動)と呼ぶ。

  • DI業務は、医師、歯科医師、薬剤師、看護婦、その他の医療従事者ならびに患者への医薬品情報の提供を通じ、良質かつ適正な薬物療法の発展をはかり、医療の向上と効率化に寄与することを目的とする。

医薬品情報源の分類 

医薬品情報はその加工度によって一次資料(情報)、二次資料、三次資料に分けられています。

一次資料は加工度が最も低く、オリジナルな研究論文や学会・研究会の抄録、特許公報、試験データなどがあります。研究論文掲載される代表的な学術雑誌を表1に列挙します。

                 表1. 一次資料が掲載されている臨床薬学領域の代表的な学術雑誌    

海外

New England Journal of Medicine

The Lancet

Annals of Internal Medicine

JAMA(Journal of American Medical Association)

BMJ(British Medical Journal)

日本

医療薬学

薬学雑誌

薬剤学

薬剤疫学

薬理と治療

臨床評価

二次資料は集積した一次資料を文献検索用に加工したもので、キーワード等によって検索することにより一次資料の書誌事項や抄録を得ることができ、そこから原報にたどれるものです。

一次資料を入手するには定期購読している学術雑誌から逐次、手検索で収集する方法もありますが、通常は二次資料の検索によって入手します。二次資料はそれぞれに収載雑誌の範囲が異なるので、自分が求める領域をカバーしている二次資料を選ぶことが重要です(表2)。(書誌事項:著者名、標題、雑誌名、巻、号、頁、年)

表2. 代表的な二次資料                       

二次資料冊子 電子媒体 領域 発行

Index Medicus

Index Medicus

 

Excerpta Medica

 

Chemical Abstracts

Biological Abstracts

医学中央雑誌

JICSTファイル、JMEDICINE

ファイル等

MEDLINE

TOXILINE

 

EMBASE

 

SciFinder

BIOSIS

医中誌Web

JOIS

 

医学・薬学・看護学全般

副作用・中毒・毒性・環境化学関係

医学・薬学および関連する生物化学

化学全般

生物学全般

医学・薬学・看護学全般

科学技術(医学を含む)全分野

 

米国国立医学図書館

米国国立医学図書館

 

Excerpta Medica Foundation

米国化学会

BIOSIS Inc.

医学中央雑誌刊行会

科学技術振興財団

 

三次資料は最も加工度の高い資料で、執筆者が収集した一次資料をもとに特定のテーマについてまとめらたものです。教科書や指針、公定書などの書籍類をはじめ、製薬企業が作成する添付文書や医薬品インタビューフォーム(以下、IF)、医薬品製品情報概要(以下、製品情報概要)などがあります。

これまで薬剤師が日常業務で利用するのは三次資料がほとんどでしたが、EBM(Evidence Based-Medicine)が求められる現在では、一次資料を利用する機会も増え、一次資料の検索に二次資料を適切に使える技能も必要になってきています。

繁用される情報源の種類と特徴 

3に薬剤師にとって利用性の高い三次資料を列挙します。製薬企業から入手可能な情報源としては、医療用医薬品添付文書(以下、添付文書)、医薬品インタビューフォーム(以下IF)、医薬品製品情報概要、使用上の注意の解説、医薬品安全対策情報(Drug Safety Update:DSU)などがあります。これらは製薬企業に請求すれば無料で入手できますので、薬局で取扱っている医薬品については取り揃えておきたいものです。この他、緊急性を要する情報として、緊急安全性情報、不良品の回収に関する情報などがありますが、これらについては確実に提供されるよう日頃から製薬企業や薬剤師会、卸販売業などと良く連携しておくことが必要です。また、製薬企業の医薬情報担当者(MR)や学術情報部、消費者相談窓口などを利用することもできます。

この他、一般の出版社から発行されている三次資料にも有用な医薬品情報源となるものがあります。以下に主な医薬品情報源を解説します。

添付文書

添付文書は薬事法第52条に基づいて提供される唯一の法的根拠のある医薬品情報源です。医薬品の使用にあたってはこの資料の収集が不可欠です。医療訴訟では添付文書に則って使用していたかどうかが争点となることもあります。しかし、紙面の量的限界や法的規制による記載禁止事項(薬事法第54条)などから臨床では必要な情報でも記載できないものもあります。例えば、承認されていない効能効果や用法用量がそれで、適応外使用や外国での用法用量などについては記載されていません。また、安全性を予測するのに重要な薬効薬理試験以外の非臨床試験の結果も記載されませんし、保存や粉砕などに必要な物理化学的性質の情報についても十分ではありません。これらを補うための情報源としてIFが作られています。

医薬品インタビューフォーム(IF)

IFは日本病院薬剤師会が作成・配布を製薬企業に依頼しているもので、添付文書では不十分な情報を補ったり、医薬品を薬剤師が評価するために提供されています。製品の特徴、有効成分の安定性、製剤の安定性、添加物、注射剤の溶解後の安定性、用量反応性試験、比較試験、各種の使用上の注意の設定理由、胎児への移行性、乳汁中への移行性、薬物代謝の詳細、非臨床の一般薬理、毒性など添付文書では十分に得られない情報が収載されています。製薬企業に請求すれば医療関係者なら誰でも入手可能です。IFは本来、医薬情報担当者(Medical Representatives :MR)とのヒアリングにより情報収集するために生まれたものです。情報が十分に記述されていない箇所は、活字にできない部分であったりするため、ヒアリングで補うことが重要です。

使用上の注意の解説

製薬企業は新薬について使用上の注意の解説を作成しています。この資料では添付文書中の警告、禁忌、その他の使用上の注意について設定理由が解説され、重要なものについては対処方法も記載されています。これも薬局には必須の情報源です。

医薬品安全対策情報(DSU)

DSUは添付文書の使用上の注意の改訂内容について日本製薬団体連合会が会員企業の情報を定期的にまとめて提供するものです。全ての医療機関に配布されます。改訂内容の重要度に応じて、最重要、重要、その他に分類されています。

緊急安全性情報

警告やその他の使用上の注意に関して、重要で緊急な情報伝達が必要な場合に厚生労働省の指示に基づき製薬企業が作成し、指示を受けてから4週間以内に、製品を使用している医療関係者に対してMRなどを通じて直接配布されます。

医薬品情報提供ホームページ(URL: http://www.pharmasys.gr.jp/

医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構(以下、医薬品機構)から提供されているホームページで、医療用医薬品添付文書情報、医薬品等安全性情報、副作用が疑われる症例報告に関する情報、緊急安全性情報、新薬の承認に関する情報、医療用医薬品品質情報集、医薬品等の回収に関する情報などを見ることができます

日本薬剤師会ホームページ

日本薬剤師会が作成・運営しているホームページで、会員向けのページには、薬価基準収載情報、DSU解説、新医薬品情報、医薬品等安全性情報など各種の医薬品情報が入手可能になっています。

医薬品卸販売業からの情報

医薬品卸販売業が定期的に発行する医薬品情報冊子は、ニュース性の高いもの(新薬、診療報酬改定、包装・表示変更、添付文書改訂)や類似薬の比較情報などの情報源として有用です。また、各社がそれぞれに工夫を凝らしたホームページも提供しています。

情報センター

日本薬剤師会の薬事情報センター、日本中毒情報センターなどでは電話による質疑を受付けています。

その他

その他医薬品情報の収集にあたって有用な代表的書籍およびデータベースを調査項目によって分類し3に一覧としました。この他、各種インターネットサイトにも医薬品情報を収集可能なサイトが数多くあります(表4)。

表4:医薬品情報を収集可能な主なインターネットサイト 
http://www.pharmasys.gr.jp/ 医薬品情報提供ホームページ
http://www.rxlist.com/ 米国主要処方薬情報
http://www.nihs.go.jp/dig/jindex.html 医薬品情報ガイド(国立医薬品食品衛生研究所)
http://chemfinder.cambridgesoft.com/ 医薬品・化学物質の構造、物性
http://www.rad-ar.or.jp/siori/index.html RAD-AR薬のしおり
http://www.umin.ac.jp/drug.htm 金沢大学服薬指導
http://www.mhlw.go.jp/ 厚生労働省
http://www.nihs.go.jp/index-j.html 国立医薬品情報食品衛生研究所
http://www.fda.gov/default.htm Food and Drug Administration(FDA) 

医薬品情報の収集の実際 

医薬品情報の収集は企業等から直接伝達・提供される情報を受動的に受け付けるものと、新聞、雑誌、学会、インターネット、書籍などから能動的に収集するものとがあります。ここでは能動的な情報収集法について解説します。

一般的な調査

医薬品情報の調査は、通常、一般的かつ簡潔な資料から、より専門的、詳細な資料へと調査を進めます(1)。

最も一般的なものとして添付文書、IF、製品情報概要があり、これらで情報が不十分であった場合には教科書、ガイドラインなどの三次資料へと進みます。三次資料は表3に示したようにテーマや構成にそれぞれ特徴がありますので、それらを踏まえて利用します。また、索引や付録にも特徴があるので、それらの使い方にも習熟しておくと効果的です。これらの資料から情報が十分に収集できなかった場合は二次資料を利用して一次資料を入手します。

二次資料の検索

二次資料の検索は、現在は電子化されたデータベースを使って、コンピュータで行うことが多くなります。主題に沿ったキーワードを選定しこれを用いて検索します。2語以上のキーワードを使う場合には、論理積(A AND B)、論理和(A OR B)、論理差(A NOT B)などの演算子の組み合わせにより求める文献を検索します。

添付文書と医薬品インタビューフォームの使い分け 

先にも述べましたが、添付文書は薬事法に基づき作成されている文書であるという立場から記述できる範囲が限定されています。添付文書の情報は、主に標準的な患者を想定して使った場合の情報から構成されています。もちろん高齢者、小児、妊婦・授乳婦などへの使い方についての情報も掲載されていますが、必ずしも十分ではありません。また、調剤時に特殊な加工をしたりする際の参考になる情報を入手するのも無理です。禁忌の患者、効能効果、標準的な用法用量、最低限行うべき患者への説明事項やモニタリングすべき副作用などの確認に用いるのが添付文書の主たる利用法です。添付文書にあまり細かい情報を求めると情報量が多くなりすぎて本当に重要で必要な情報が分かりにくくなってしまいます。添付文書はminimum requirementの情報源であると認識しましょう。その上で、添付文書の情報だけで満足していては薬剤師としては努力が足りません。IFには薬剤師の観点から見て、調剤や薬剤情報提供時に必要な情報が数多く収載されています。薬剤師業務の遂行にはIFは不可欠な情報源です。添付文書で回答が得られない疑問を解決するには、まずIFを見てそれでも情報が得られない場合に、企業に照会するなどの方法をとる姿勢を心がけたいものです。

医薬品情報評価の基本 

医薬品情報の評価を総括する。

まず、主にオリジナルな研究報告の論文である一次資料は、目的・方法・結果・考察・結論に分けるなどして論旨が明確に記述されていなければならない。その上で、目的が明確で、その目的に対して適切な方法が使用されているか、結果の数値は適切に記述されているか、考察は結果に基づいたものであるかなどを評価する。一方、加工度の最も高い三次資料は著者の考え方が色濃く出る傾向があるので、著者の専門領域とテーマが一致していること、根拠に基づき記述されその引用文献が明記されていること、新しい論文も引用されていること、資料の発行年が新しいこと、版を重ねていることなどを信頼性の判断ポイントとする。特に製薬企業から発行される三次資料である添付文書、IF、製品情報概要などは引用文献も含めて吟味した上で利用する姿勢が求められる。EBM(Evidence-Based Medicine)でよく利用されるBest EvidenceやCochrane Libraryは、それぞれに独特のreview法を取り入れた一種の三次資料である。三次資料とは言え、集積した一次資料を批判的に吟味し、メタ分析などの手法を用いて一次資料のデータを再利用し新たな情報を構築していると言う点において、従来の三次資料を超えるものとなっている。

臨床の場で良く利用されるのは、三次資料である。しかし、その根拠となるのはいわゆる一次資料のオリジナル研究報告であり、この一次資料を適切に評価できる能力が最も重要であると言える。